『果て遠き丘』[ 春の日 ](九)26 保子はふっと、思いつ……

保子はふっと、思いつめるような声になった。容一は、大阪に二、三日出張する用があったので、会う日を今日まで延ばした。保子は外食を嫌う女だ。が、この菊天にだけは、時折容一ときたものだった。おかみの初代が、保子の気性をのみこんで、座布団のカバーは真新しいものをかけて出すし、夏でも冬でも、おしぼりは火傷をしそうな熱いものを出した。ここの天ぷらは、特に保子の口に合う。自分の手で作った刺身でなければ食べない保子も、この店の刺身だけは食べた。


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